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いつからですか? 今日からです!

担当医には繰り返し何度もこれから走れるようになるのか聞いてみたが、いつも返ってくる答えは「無理でしょう」「危険ですよ」「遠い将来ファンランなら」「自転車なら可能です」だった。
リハビリも相変わらず緩いもので、思わず口にしてしまった。
『こんな汗もかかないようなリハビリじゃ来る意味がないですよ。もっと負荷をかけてくれませんか。』
『心筋梗塞を発症した方は汗をかくような運動はできません。汗がにじむ程度の運動です。』
男性理学療法士にハッキリとした口調で跳ね返されてしまった。
『……』
(この人だって一生懸命やっている。マニュアルや医師の所見、今までの経験などで最適なリハビリをやってくれている。それなのに何ということを言ってるんだ。失礼じゃないか。ブンブン丸よ、焦るんじゃない!)

悔しい!
悲しい!
でも仕方がない。これが現実なのだ。
この程度の運動しかできない、やってはいけない身体になってしまったのだ。

焦るな!
腐るな!
諦めるな!
いつか必ず走れる日がくるはずだ!
ぐっと我慢するしかない!

ある日リハビリ中に女性理学療法士に言われた。
『ブンブン丸さん、走りたいんでしょ?スポーツに明るい医師がいます。走りたいなら一度診てもらえるか聞いてみましょうか?』
『えっ、是非、是非お願いします。』
希望の光が見えた瞬間…(^O^☆♪
Gさんという医師で診てもらえるのは平日のみ。5月2日水曜日に予約を入れて会社は休暇をとった。

期待と不安が入り混じる中、これからの運動程度を処方してもらうための心臓負荷検査(エルゴメーター法)を行った。
心臓負荷検査とは、医師の監視下で自転車をこいで運動負荷(徐々に重くする)を行う。運動中の症状・心電図変化・心拍数測定・血圧測定に加え、専用のマスクをつけて酸素消費量、二酸化炭素排出量を同時測定し、呼吸・循環・代謝の総合的な判定を行う。運動中の有酸素/無酸素代謝の境界を判定することで、日常生活における心臓のポンプ予備機能力を評価でき、どの程度の運動が適しているかを指導する「運動処方」の程度を測定するもの。

自転車をこいでいると徐々に負荷がかかって重くなる。限界がきたら手を上げてそこでストップしてもらう。しかし、ブンブン丸になかなか限界は訪れなかった。本当の限界が来るまでかなり我慢した。
医師と理学療法士が二人で監視している。
『すげ〜考えられない。すげ〜、すげ〜信じられない。』
理学療法士が何度もつぶやいた。

★心肺機能114%(49歳健常者の心肺機能平均値比)
もし心筋が40%壊死せずに100%あった場合114÷0.6=190% つまり1.9倍ということ。
40%心筋壊死でも健常者より心肺機能が高い。
★最大心拍数184
最大心拍数は220-年齢が標準といわれている。220-49歳=171
健常者の平均値が171に対して40%心筋壊死しているブンブン丸はこれを軽く超えている。(1.08倍)
★無酸素運動の境界
心拍数110
現状では110を超えると無酸素運動の領域に入り、再発リスクが高まる。

心筋梗塞経験者の運動は有酸素運動でなけれなならない。したがって現状では心拍数110を超えるような運動は不適格。しかし、これからのリハビリ効果次第ではますます高まる可能性があるので期待していいものだった。

『ブンブン丸さん、私の言うことは絶対に守ってくださいね。そうしないと命を落とすことになります。』
『はい。わかりました。』
10分を1.2kmのペースで且つ心拍数110を超えないように走るのならいいでしょう。但し、1km以上は絶対に走らないでください。1kmまでです。心拍数110という意味は、現状で有酸素運動と無酸素運動の境界が110です。無酸素運動をすると心筋梗塞再発リスクが高まるので禁止です。絶対に守ってください。』
『わかりました。守ります。必ず、必ず守ります…』
(やった~走れるぞ。走れる。走れる。走れる。…)
『いつからですか?いつから走っていいのですか?』
『今日からです。今日から走っていいですよ。』
『えっ、ホンとですか?!!ありがとうございます。』
『その代り私が言ったことは絶対に絶対に守ってくださいね。』
『わかってます。』

まさか、まさか今日から走っていいなんて想像もしていなかった。今にも飛び上がりたくなるほど嬉しく、そして満面の笑みが浮かんだ。万歳を連発したいくらい気分が高揚した。
『ありがとうございます。ありがとうございます。』
今までの苦悩がすべて払拭されて、希望に満ち溢れた将来が約束されているかのような錯覚に陥り、いつまでも笑顔が消えることがなかった。帰りのバスの中でもニタニタとにやけている自分が良くわかり、この嬉しさは誰にも止められるものではなかった。
諦めなくて良かった。
手術後すぐに諦めていたら今日という日はなかった。
0.01%でも可能性があるならばそれに賭けてみたいと思った自分は間違っていなかった。
走りたい、走りたい、ただ走りたいということだけを考え、走りたいという、走れるようになりたいという「夢を力に」変えてきた。
人間、何かをやりたいという願望があればどんな苦悩でも我慢できる。実現するまではどんな努力も惜しまない。
あの大手術からこんな短期間(わずか3ヶ月)で走る許可が出たなんて夢のようだった。
でも、今まで体験してきた悪夢のような現実とは違って正反対の良い意味で夢のような現実だった。

真価が問われるのはこれからだ。これからの努力次第でブンブン丸のランニング人生は大きく変貌する。ひとまずは有頂天のまま帰ってもいいが、それは家に着くまでの間だ…
\(~o~)/\(~o~)/\(~o~)/\(~o~)/\(~o~)/\(~o~)/\(~o~)/
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復帰

退院後は順調に回復。足のむくみもだいぶ取れてきて革靴も履けるようなった。
家でくすぶっているのが退屈で、医師に相談したところ条件付きでの会社復帰が許可された。条件とは、胸骨肋骨がついていないのでラッシュ時の通勤を避けること。幸い自分の会社はフレックス制度を採用していたので弊害はなかった。3月中旬から出勤することにし、会社に報告したところ当面の出勤先は新宿本社でいいとのこと。予想外に早い復帰が決まった。
もしマラソンをしていなければ急性心筋梗塞の発症はなかったかもしれない?でも、マラソンをやっていたからこそこんなに早く回復ができて、こんなに早い社会復帰が可能になったのだ。マラソンの神様がいるのなら感謝しなければならないと思った。

妻の提案で会社復帰する前に伊東温泉に行くことにした。河津桜が丁度見頃の時期だった。
温泉は胸の傷、足の傷が生々しいためタオルで胸を隠しながら入ったが、首までつかって温まっていたら目まいで気分が悪くなってしまった。
後からわかったこと・・・水圧が胸(心臓)にかかるので半身浴が基本。

会社出勤時は当然胸部ベルトを巻いているが、ワイシャツの下に付けてしまうと第三者から見て何もわからない。健常者と見分けがつかないのでワイシャツの外側に付けた。そして、電車に乗る時はコートのボタンをかけずに周囲の人に警戒してもらえるよう胸部ベルトが見えるようにした。

会社復帰を果たすようになり、どうしてもやっておきたいことがあった。それは仕事ではなくアミノバイタルACに挨拶へ行くこと。まずはOMさんにメールを送った。
以下はその時のメール。


OM様

ご無沙汰しています。

突然練習に行けなくなってから1ヶ月半が経ちました。
香港国際マラソンのレース中に急性心筋梗塞を発症し救急車で国立病院に搬送されました。
香港で治療することを勧められたものの拒否して帰国。K大学病院で緊急大手術・・・

人工心肺を使用した11時間の大手術で5日間心筋梗塞を放置したため心臓の40%が壊死しています。
でもマラソンをしていたおかげで驚異的な回復。昨日から会社に復帰です。
当初は40日入院、自宅療養も40~50日という診断でした。

神戸が終わったあと納得のいく練習ができていたので残念です。
YKさんに40キロのロング走を取り入れるよう言われていたので直近の2ヶ月間で4回(50キロ1回、45キロ1回、40キロ2回)実行。42.195キロに対応できる脚ができあがっていました。
アミノバイタルに入部した目的3時間30分を切れるという思いもありました。
悔しいです。

医師からはマラソン(ジョギングを含めて)禁止勧告を受け、ショックで涙してしまいましたが、落ち込んでいても仕方ありません。
泣き言を言っても何の進歩もありません。

今は医師の忠告を素直に受け入れてウォーキング主体のリハビリで心臓機能を高めるしかないのです。
長い年月がかかろうが、私はいつか必ず絶対に復活します。

しばらくは練習に参加できませんが必ず復帰できる体に仕上げるのでその時まで待っていてください。

名古屋ウィメンズはテレビでYKさん、HEさんの応援をしました。
二人の頑張る姿を見て自分もやらなければという決意が沸き、HEさんの走りにはとくに感動しました。
アミノバイタルACで練習できたことを誇りに感じています。

明日会社帰りに立ち寄ろうかと思います。(体調が良ければ)
皆様によろしくお伝えください。


翌日アミノバイタルACへ元気になったブンブン丸を見せに行くことができた。OMさんもOHさんもいた。久しぶりに皆さんの顔を拝見し、絶対に絶対に復活したい。走れるようになりたい。と強く決意することができた。

心臓を心筋を強くする

退院後はほぼ5日おきに診察とリハビリで通院することになっていた。
会社への復帰は医師と相談した結果、ゴールデンウィーク明けくらいがいいだろうとのこと。3ヶ月も休むことになるが、保存休暇と有給休暇を合わせれば90日間あるので欠勤になることはない。復帰するまでの間は無理をしない範囲で積極的なウォーキングをして心臓機能を高めていかなければならない。
運動時の上限心拍数が90がのため、まず最初に用意しなければならないのが心拍計。マラソン用のタイメックス製を持っていたが、胸にベルトを巻かなければならない。手術の傷口に当たってしまい違和感が我慢できず、脈拍計を購入することにした。
ウォーキングは自宅近くにある自転車道と遊歩道が並行しているコースで行うことにした。始点から終点まで往復すると20キロ以上ある。今まではここをトレーニングコースとして一人で走っていたが、これからはウォーキングコースに変貌する。
退院の翌日から歩き始めた。走るのとは違い始点から終点までの往復というわけにはいかない。区切りのいいところで6キロを毎日歩く目標にした。ランニングは週1で休みが必要だが、ウォーキングに休みはいらない。
ダウンジャケットにマフラー、ニット帽、手袋と完全防備で毎日歩き続けた。雨が降ろうが雪が降ろうが1日も休まなかった。
病院へ行くときは往復13キロを歩くこともあった。
走れば6キロなんてすぐに終わってしまうが、歩くと1時間では終わらない。楽しみは折り返し地点の駅前のミスドでコーヒーを飲むこと。(コーヒーも1日2杯くらいならOK)
歩いていて落胆したのが心拍数。心筋梗塞発症前は平常時40程度だったが、今では80もある。歩いただけで簡単に90に届いてしまう。こんな状況では走れるようになるまでいったいどのくらいの期間を要するのか?
「5年かかろうが6年かかろうが10年かかろうが走ることを諦めないと言ったのはどこのどいつだ?」
それはまぎれもないブンブン本人。今ここで泣き言を言っても何も始まらない。何の進歩もない。辛抱して少しずつ前に進むしかない。少しずつ心臓を強くしていくしかない。

焦っちゃダメだ!
腐っちゃダメだ!
諦めちゃダメだ!

悲しい。悔しい。
でも、前を向いて頑張るしかない。

いつか絶対に走りたい。それがどんなに危険なことかは知っていた。それでも走りたかった。

心筋が40%も壊死していると、心拍数が高い状態を継続してしまうと心臓が耐えきれずに破裂する。即死らしい。
でも、それでも走りたい。そうならないために心臓を強くしていく。できるはずだ。必ずできる。気が遠くなるほど長い期間かかるかもしれないが、今は歩くしかない。

心筋壊死(退院検査)

心臓CT検査とは、腕の静脈から造影剤を点滴して心臓や冠動脈の状態を調べるもの。身体中、頭のてっぺんまで炎に包まれるようなようで芯から熱くなる。このまま焼却されてしまうのではという感じだ。
今回の入院で数々の痛い経験をしてきたので、もはやこれくらいのことで驚くことはなくなってしまった。慣れというのは恐ろしいものだ。

心臓負荷検査(エルゴメーター法)とは、医師の監視下で自転車をこいで運動負荷を行う。運動中の症状・心電図変化・心拍数測定・血圧測定に加え、専用のマスクをつけて酸素消費量、二酸化炭素排出量を同時測定し、呼吸・循環・代謝の総合的な判定を行う。運動中の有酸素/無酸素代謝の境界を判定することで、日常生活における心臓のポンプ予備機能力を評価でき、どの程度の運動が適しているかを指導する「運動処方」の程度を測定することができる。

他にも数々の検査を行って全て異常なし。
2月25日土曜日(翌日は東京マラソン)に退院が決定した。

検査結果で気になる数値の記載があったので聞いてみた。
『この数値何ですか?』
『ブンブン丸さんと同じ49歳男性健常者の心肺機能平均値とブンブン丸さんを比較した数値です。』
『87%ということですか?いや〜ショックです。こんなに機能が低下してしまったんですね。』
『ショックですか?でも、これは凄い数値ですよ。ブンブン丸さんくらいの手術をした患者さんは退院時30%か40%というのが普通ですから。』
『心肺機能は鍛えればアップしますよね?』
『勿論です。』
『これは何ですか?』
『壊死した心筋の割合です。』
『えっ、…40.…4割も壊死してるってことですか?』
『そうです。』・・・医師は軽く答えた。
ビックリした。4割壊死ってどんなことなんだ?
『これって、元に戻るんですか?回復するんですか?』
『いいえ、壊死した心筋は回復することはありません。一生このままです。』
(そんな、そんな、心筋が4割も壊死したままなんて、これからどんな生活になってしまうんだ?)
『4割壊死ってひどい数値なんですか?普通なんですか?これから先どうなってしまうんですか?』
『命を落としていても不思議はなかったのですからこのくらいの数値はよくあることです。走るときは心筋は100%使います。階段や坂道を上るときは50%以上使います。しかし、普通に日常生活を送るだけなら50%以下です。だから60%残っていれば日常生活に問題はありません。ブンブン丸さんの場合、心筋を目一杯使っても今までの60%ということ。走っても60%しか使えないということです。走るにはハンデがありますが、ウォーキング主体のリハビリに励んで少しでも機能が高まるようにしてください。』
(4割壊死。走るときは100%使う。でも60%しかない。あ〜なんてことだ。これで走るなんて無理じゃないか?すぐに息切れするじゃないか?走ることって絶望?ホントにファンラン程度しかできないよ。というよりファンランだって怪しいよ…)
『ブンブン丸さん、でも人間には眠っている心筋というのがあります。それは心臓の強い人ほど多くみられます。ブンブン丸さんはその可能性が非常に高いと思います。心筋が強いために使う必要がなかった眠っていた心筋は、壊死をきっかけに目覚めるのです。心筋が不足してしまったので目覚める…期待していいと思います。』
『それって何%くらいですか?』
『一概には言えませんが3%くらいですかね!?』
(たった3%…まあ、ないよりましか)

心筋壊死 愕然とした事実を知ってこれからどう復活の道を歩んでいったらいいのか・・・不安だ!
落ち込んでいても何の進歩もない。事実は事実として受け止め、
「焦らず腐らず諦めず」
地道に歩いて心肺機能を高めるしかない。リハビリするしかない。強い気持ちを持ち続けるしかない。
走りたいという夢を力に変えていこう!
ブンブン丸はどんな状況に追いやられても必ず復活する。復活してみせる。

ファンランなら…

術後の経過がすこぶる良いため、心臓CT検査や心臓負荷検査などの結果次第で早期退院できることになった。
ここは大学病院。入院待ちの患者が多数いるのでドンドン入れ替えたい現状があるのだろう。

『先生、私はもう一度走ること本当にできないんですか?遅くてもいいんですよ。記録狙いの走りはしません。5年後6年後とか、将来的に走れるかが聞きたいです。』
『ブンブン丸さんは凄い回復力なんですよ。普通の患者さんとは比較できないほどの回復でビックリしてます。だからというのも変ですが、ファンランというのがあるでしょ。2kとか3kの…あの程度だったら将来的にできるかもしれませんね。私も子供と一緒に出たことがありますよ…』
それを聞いていた妻が
『先生、そんなこと言わないでください。この人本気にしますから。』
(やっと言った。ファンランが可能ならもっと先の将来は10k、ハーフ、フルって可能になる。最初はファンランでいいんだ。でも、最終的にはフルだ。フルを目指す。やった〜走れるぞ。)
『でも、一度心筋梗塞にかかった人は再発し易い身体になっています。一度目は助かっても二度目は命がないと思ってください。二度目は手術ができませんから。カテーテルならできますが開胸手術はできません。そこを肝に銘じてください。とても危険なことですよ。』
ブンブン丸はニッコリと微笑んだが、妻は本気にしかねないと心配そうな表情を浮かべていた。

しかし、走れる望みが出てきたので、これから先一生懸命歩いて歩いて歩きまくって走れる準備をしようと今まで以上に意欲が湧いてきた。

YKさんのサインに書かれた言葉が頭に浮かんだ。

「夢を力に」
走るという「夢を力に」頑張ろう!
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