2017年3月5日(日)午前8時20分
号砲が鳴り第4回静岡マラソンがスタートした。49秒後にゲートを通過。Bブロックからは2分くらいかかると考えていたので、予想よりも1分ほど早く脳の機嫌が一気に上向いた。
右手側が市役所、左手側が県庁という位置からスタートしてすぐに北街道を左折。最初の数百mは流れに沿ってゆっくりめ。次第に自分のペースで自在に走れるようになり、沿道にいるたくさんの方から応援を頂き気分が高揚。
行ってらっしゃい。
あと42キロ頑張ってくださいね〜
ありがとうございます。頑張ってきます。
こんなことは初めてだ。自然といきなり声援に応えることができた。これはやっぱりランナーズの特集コピーを読んだ影響だ。

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北街道を4キロほど走ったところで流通センター通りを左折。間もなく5キロ表示板が見えてきた。
5キロ
グロス24"24
ネット23"35
岡山では最初の5キロが25分02秒。一度も5キロ25分を割り込むことがなかった。それでも身体が重く心肺も余裕なく辛かったことを思い出した。
今日はフルマラソンとしてはこんなに速いペースで走っているがすごく楽。余裕を感じる。心筋梗塞後に走ったレースでは一番速いペース。ハーフより速いかもしれない。
(おいおい、ちょっと速過ぎるよ。最後までもたなくなるからペースを落とせ。4分55秒でいいんだ。)
同時に今シーズン取り組んできた強度な練習を思い出し、
(どうだ。これが俺の走りだ。恥じないだけの練習を積んできたんだ。俺だってこれくらいはできる。)
鼻高々になっている自分を感じた。身も心もすごくご機嫌だ。
脳の中にあるコースマップを取り出してみると7キロ〜13キロくらいにかけてが登りになっている。次の5キロとその次の5キロは少しペースが落ちるだろう。いや、落とすべきだ。落とさなくてはいけない。登りは心臓に堪える。ここで無理をしてはいけない。ペースを落として後半に温存しろ。心臓を労れ。
10キロ
グロス48"06
ネット47"17
落としたつもりが落ちていなかった。
(おい、速いよ。上げ過ぎると後半失速しちゃうよ。まじで落とせ。)
(だけど楽なんだよ。苦しくない。嘘じゃないんだ。楽なんだよ。)
心肺が強くなっていることを実感し、強度な練習をしてきた自分を誇りに感じた。いつも感じることだか練習は嘘をつかない。やればやっただけの成果を出してくれる。結果を形として残してくれる。でもこのペース、ホントに速過ぎはしないか。
(キロ5分でいい。焦るな。慌てるな。今は体力を温存しろ。後半にとっておけ。)
(だけど調子がいい。こんなに調子がいいのは初めてだ。今日はいいタイムが期待できるぞ。)
突然左足シューズの中に石ころのような異物が入った感覚があった。土踏まずあたりのため踏み潰すことはないが違和感でストレスを感じ始めた。




ガラス瓶のかけらのようなものが薄いニューバランスRC1300のソールとインソールさえも突き破っていた。最後までこの状態で走り、怪我がなかったのが不思議。土踏まず付近だったのが不幸中の幸いか。
静岡中心地から東へ北へと郊外を走ってきたが、南西へと旋回してまた中心地に戻っている。
14キロでエネルギー補給のジェルを取り出してチビチビと口に入れた。どうもこの甘いジェルが苦手だ。毎回ウエストポーチに入れているが我慢して30キロあたりで1本食べるだけ。今回は記録を狙っているのでエネルギー不足にならないよう10キロ、20キロ、30キロ、35キロ、40キロで補給しようと考えていた。最初の1本、予定より遅れてしまった。次は20キロで補給しなければ…

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15キロ
グロス1'12"21
ネット1'11"32
15キロを過ぎて安倍川沿いを走った。風景は市街地から郊外へと変化して、何となく海岸が近いという雰囲気を味わいながら走った。
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最初からずっと途切れることなく暖かい声援を受けている。小さな子供からおじいちゃんおばあちゃんまで大きな声で声援をいただいた。その度にできる限り「ありがとうございます」と大きな声で感謝を口にした。確かに大きな声で「ありがとう」と言うと脳が活性化されて気分がいい。
20キロ
グロス1'37"07
ネット1'36"18
中間
グロス1'42"39
ネット1'41"50
ネットタイムでは直近のハイテクハーフより速いことに気がついた。(1'42"19)
(本気で目一杯走っているわけじゃない。15キロからは頑張ってペースを落としている。それなのにハイテクハーフより速い。来年のハーフは1時間30分台が狙えるぞ。)
ワクワク感が一層増して今日はどんな結果になるのだろうと楽しみながら走り続けた。

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南安倍川橋を渡り23キロが過ぎてもうすぐ24キロというところ。もう少しで海岸線に入るというところだった。
"ブチッ"
左足から聞こえた音。間髪入れずに左膝が落ちて一瞬のうちに体がぐらつき倒れそうになった。
なんとか倒れないよう体勢を立て直したが左足は地面を蹴れる状態ではない。引きずっていた。
しかし、本能的に歩くことも止まることもしないで腕を振り続けた。
(なんでだよ〜 なんで?こんなに調子がいいのになんで?30分台出ると思ったのになんで?)
一瞬で絶望に変わった。
(あと18キロ、いやそれ以上、18.5キロも残っている。無理だろう?やめようか?走れないよ。)
ついさっきまで、あと18キロ少々で終りだ。とポジティブ思考だった感情は、あと18.5キロもある…という感情に変わってしまった。
ウエストポーチからエアーサロンパスを取り出して音が鳴った左ふくらはぎにジェット噴射し続けた。もちろん引きずり走りをしながら…
体は歩こうとか立ち止まろうなどとは反応せず、何があっても走り続けるという方向に自然と反応していた。
エアーサロンパスは大阪マラソンで貰ったサンプル品のためすぐに使い切ってしまった。もう何もない。処置をしたければ救護に飛び込むしかない。それは嫌だ。立ち止まることになる。休むことになる。どんな状態になろうが1秒とて無駄にすることはできない。
どんな状態になっても
"1秒でも速く走る努力をする"
"1秒でも長い間走れる努力をする"
がポリシーだから。

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25キロ
グロス2'03"04
ネット2'02"15
海岸が海が見えた。海岸線を走る美しいコースに変貌した。
気持もポジティブに変貌した。

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(仕方がない。こうなってしまったものは仕方ない。言い訳なんかしちゃダメだ。できるところまでやろう。できる限りのことはやろう。この海岸が見えなくなるまで頑張ろう。35キロで海岸沿いの走りは終わる。あと10キロ頑張ろう。綺麗な海を綺麗な富士山を楽しもう。)
なんとか足を引きずりながら走れる限界の速度を模索しながら走りを試みた。痛みが我慢できて少しでも速く走れる限界の速度を模索した。この時点ではキロ5分50秒程度が限界速度。これを超えると我慢できないほどの激痛が走る。超えなくても激痛にかわりはないのだが、なんとか我慢できる限界速度。たくさんのランナーに次々と抜かれた。悔しいが仕方ない。
(これでいい。こんなこともあるよ。仕方ない。悔しいけど仕方ない。今日は記録は無理だ。記録だけがマラソンじゃない。終わるまで走り続けることがマラソンだ。だから痛くても歩いちゃダメだ。お前ならできる。あんなに練習したじゃないか。できる。)
去年静岡マラソンを走ったTDAさんに海岸沿いの給食、石垣苺が美味しいので食べてくださいと言われていた。その苺畑が目に飛び込み、同時に給食の石垣苺も発見した。しかし、苺にだけ人だかりがあって走りながら取るという行為はできそうになく、止まらなければ取れないと感じた。止まることは許されなかった。且つ止まるとこの足は二度と走れなくなると感じていたから。止まったら終わり。痛みに耐えられず走れなくなる。走りを諦めない代わりに苺を諦めた。
左正面に富士山がどうだと言わんばかりにそびえ立っていた。静岡マラソン4回目にして初公開富士山の光景だ。
やっぱり富士は日本一。

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30キロ
グロス2'31"22
ネット2'30"33
苺畑の前でおばあちゃんが
クエン酸ですよ。元気が出ますよ。
とトレーに乗せた紙コップを差し出してくれた。
とっさに
ありがとうございます。
と受け取り飲み干した。
飲みやすいように氷を細かく砕いてあり、すごく冷えた美味しい美味しいさっぱりした炭酸の効いたCCレモン。
見ず知らずの人にこんなに気遣ってくれて感謝でいっぱいだ。
飲み終わった瞬間に元気が出た。
ありがとうございます。美味しいです。
大きな声で後方のおばあちゃんに聞こえるようお礼を言った。
たくさんやった練習を思い浮かべた。誰にも恥じないだけの練習をしてきた。誰にも負けないくらいの距離を走ってきた。あと10キロ程度だ。皇居2周程度だ。走れないはずがない。痛いのは何かの錯覚だ。お前ならなんなく走れる。

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35キロ
グロス3'02"30
ネット3'01"19
最後と思われる給食の苺も取れずに美しい海岸線に別れを告げた。これから清水駅へ向かってマラソンで一番苦しいと言われる残り7キロに挑む。足のアクシデントから早10キロ以上も走った。
そして、いつも鬼門としている37キロまであと2キロだ。あと2キロ頑張ろう。

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足の激痛は相変わらず静まることはなく一層痛みを増している。
37キロはすぐに訪れた。いつもは35キロを過ぎると時間が止まったような感覚で1キロどころか100mですら長く感じる。しかし今回はそんな風には感じない。足は痛くてたまらないが苦痛はない。激痛が走っているが苦痛は走っていない。気分だって落ち込んではいない。30キロも35キロも目標としていた通過タイムに届かなかったが落胆はない。それどころか爽快な気分だ。今日を乗り越えれば自信になるぞ。そう思った。

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1キロ毎にラップは確認しているが、あのとき以来タイムは確認していない。たまにはこんなマラソンがあってもいい。今日はタイムなんて気にせず走ろうじゃないか。足が痛くたって激痛が走っていたって別に命を失くすわけではない。心臓の危険に比べればたいしたことはない。楽なもんだ。
心拍数はどんどん下がり120を表示している。今回は心臓に優しいマラソンになった。心筋梗塞再発の危険がない実に優しいマラソンだ。足は少々痛いが心肺だって余裕のよっちゃん。
それとは反比例して、激痛を我慢して走れる限界のスピードはどんどん遅くなっている。キロ7分にも迫る勢いで遅くなっている。必死で我慢して落ちる速度をおさえようと頑張った。
たくさんやった練習を再び思い出した。キロ4分の走り。キロ4分10秒の走り。キロ4分20秒の走り。キロ4分30秒の走り。俺はあの走りができる。だからこの程度の走りで弱音など吐く奴ではないとポジティブになった。
(楽じゃないか。こんなにゆっくり楽に走っているじゃないか。)
左足は地面を蹴ることができずに引きずり続け、右足にはかなりの負担がかかっている。右足は足裏が痺れて痺れ過ぎて感覚がわからない。麻痺している。右足さえも引きずるように走っているのか。限界が近いのか。
(いや、限界なんかじゃない。俺には限界はない。可能性は無限大だ。)
どこまでもポジティブだった。
清水の市街地が近い雰囲気が漂い始め、徐々に応援する人が増えてきた。
旦那さん頑張って~
(エッ、俺のこと?)
ありがとうございます。頑張りま~す。
40キロ
グロス3'33"45
ネット3'32"56
小さな子供がメガホン片手に声援を送っていた。腹の底から力を込めて
頑張れ~頑張れ~
完走できるよ~
ありがと〜う
天にも届くくらい大声で返した。
サンキュー
後方からもお礼の言葉がこだました。
お帰りなさ〜い
お疲れさま〜
よく頑張りましたね〜
ゴールまでもう少しですよ〜
ありがとうございま〜す
ありがとうございま〜す
あと500mだ〜頑張れ〜
ありがとうございま〜す
42キロの表示板が見えた。
(よっし、あそこからダッシュだ。)

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ダッシュを試みたが激痛に耐えることができずゆっくりとフィニッシュを迎えた。
フィニッシュ
グロス3'47"49
ネット3'47"00

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地面に頭がつくくらい深々とお辞儀をした。マラソンの神様、今まで出会ったたくさんの方にありがとうを言った。その中には今回応援メッセージとご機嫌脳のコピーをくれたYEさんも入っている。このご機嫌脳を読まなければ今日は途中棄権していただろう。
マラソンの神様はPちゃんであることを大阪マラソンで感じていた。天高く、ブンブン丸の遥か後方から見守っている気配を感じとったのだ。もちろん静岡にもPちゃんは来ていた。
メダルとタオルを受け取り記念撮影

この後歩行困難になり医務室へ直行。

整形外科で診断の結果
腓腹筋断裂全治4週間。ミラノちゃんも心配しています。
何一つとして目標達成ができなかった静岡マラソン。しかし、やりきった感は今までのどの大会よりも強い。
最後まで諦めなかった納得できる大会。来シーズンに繋がることは間違いない。
目標達成はできなかったが去年の東京マラソンの記録を1分10秒だけ短縮。
神様は大幅な記録更新を認めてくれない。少しずつしか認めてくれない。それでもいい。一歩一歩少しずつ努力して、少しずつ記録が短縮される。それでいい。
1秒でも速く走りたい。
1秒を無駄にするな。
これが俺の原点だ。
怪我を治してまた一歩一歩努力する。
来シーズンは3時間30分台で走ることができるよう努力し続ける。
ブンブン丸の挑戦は終わらない。